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「賭博罪の限界 ー 東京大学教授 橋爪隆」法学教室2026年3月号

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賭博罪の限界 ー 東京大学教授 橋爪隆」法学教室2026年3月号


架空の話だが、大学のゼミの合宿幹事の間で、次のような会話があったとしよう。
学生A:2日目のテニス大会だけど、やっぱり賞金を出そう。参加者20名から1000円徴収すれば2 万円集まるから、これで1位から4位までに賞金を出そう。気合い入るよ!
学生B: やる気は出るけど、賭博罪に該当しないかな?
学生Bの言うとおりであり、このテニス大会は賭博罪に該当するおそれが高い。刑法185条が処罰している「賭博」とは、2人以上の者が偶然の勝敗により財産の得喪を争う行為と解されている。「得喪を争う」というためには、勝者が財産を得て、敗者がそれを失う関係、すなわち、敗者の財産が勝者に移転する関係が要求される。上記テニス大会は、テニスの勝敗を争った上で、敗者は1000円を失い。その財産が賞金として勝者に移転する関係にあるから、「賭博」に該当しうる(同条ただし書は、「一時の娯楽に供する物」を賭けた場合に例外的に処罰を否定しているが、金銭はその性質上、これに当たらないとするのが判例(大判大正13-2.9刑集3巻95頁)の立場である)。
学生C: 自分たちでお金を出すからダメなんだよね。だったら、先生に出してもらおう。法学教室に原稿書いてたから、2万円くらい大丈夫でしょ。
学生Cの人間性には疑問を覚えるが、刑法的には正解である。テニス大会に参加する学生は負けても財産を失うことはなく、勝った場合に賞金を得るだけである。したがって、この大会は「得喪を争う」ものではなく、賭博罪には当たらない。
学生D: テニスコートの利用料金のことを忘れてた。
半日貸し切って1万円だから、学生から500円ずつ集めて、先生から2万円もらえば完璧だよね!
確かに完璧である。学生参加者は500円の財産を失うようにみえるが、それは大会に参加するための費用であり、テニスの勝敗にかかわらず、支払うものである。そして、賞金は教員の負担によって提供されるのであるから、やはりこの場合にも参加者の間では「得喪を争う」関係は生じない。
このような理解を身近なビジネスについて確認しておきたい。正月恒例の福袋は、偶然によって当たり外れがある場合が多いだろうが、これが賭博罪に当たらないのは、「外れ」であっても、価格相当の商品を入手できるからだろう。かりに販売価格1万円の福袋で、「外れ」 福袋の価値が5000円であれば、販売者と購入者との間に「得喪を争う」関係が生じてしまう。「外れ」の福袋であっても、少なくとも1万円相当の商品が入っていれば、客は損をすることがないから、賭博の問題は生じない。このような前提からは、商品の価値を把握する基準が重要になる。商品の販売価格は、その価値を反映していると考えるのが自然だろうが、一般には市販されていない商品、NFTなどのデジタルデータの場合などは、さらに慎重な検討が必要になるだろう。
ゲームセンターのクレーンゲームや縁日の射的などはどうか。客は勝てば景品を取得するが、負ければ代金を失うだけだから、主催者と客の間で「得喪を争う」関係が生ずるようにもみえる。しかし、客が景品獲得のための賭け金としてではなく、当該遊戯に参加して楽しむために代金を支払っていると評価できれば、上記のテニスコート利用料金と同様に考えて、賭博該当性を否定することができるだろう。そのためには、これらの遊戯が、景品を獲得するための手段に尽きるのではなく、遊戯自体にゲームとしての魅力があることが必要だろう(だからこそ、客は参加するために対価を支払うのである)。また、遊戯に参加するための対価として、代金が適切なものであることも求められるだろう。
このように偶然性を利用する取引においては、賭博該当性の問題が重要な争点となる。正当なビジネスモデルを過度に萎縮させないためにも、その限界を明確に示すことが必要になるだろう。賭博をめぐる議論は、案外、奥が深い。



by nprtheeconomist05 | 2026-04-06 15:48 | 学者