2026年 04月 05日
刑法「刑法130条にいう「建造物」の要件としての「土地に定着し」の意義」名古屋大学教授 齊藤彰子 法学教室2026年3月号
法学教室2026年3月号
最高裁令和7年10月21日第三小法廷決定
■論点
コンテナ倉庫は刑法130条にいう「建造物」に当たるか。
〔参照条文】刑130条
【事件の概要】
被告人は、土地上に設置され、3年10か月以上の間移動されることなく、電気を電柱から電線で引き込んでタイヤ等を保管する倉庫として継続的に使用されていた鉄製コンテナ(奥行き約1240cm、幅約 240cm、高さ約288cm。以下「本件コンテナ倉庫」という)に侵入したとして、第1審(判決年月日不詳) および原審(札幌高裁令和6・4・18令6(う)12)が建造物侵入罪の成立を認めたのに対して、弁護人が、 本件コンテナ倉庫は土地に定着していないから、令和 4年法律第67号による改正前の刑法130条にいう 「建造物」に当たらないとして、上告した。
【決定要旨】
〈上告棄却〉「本件コンテナ倉庫は、①移動が容易でなく土地に置かれて継続的に使用される物であり、② その形態及び③使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着しているといえるから、上記改正前の刑法130 条にいう『建造物』に当たるというべきである。基礎が打たれていないこと等の所論が指摘する事情は、本件コンテナ倉庫が上記「建造物』に当たることを否定すべきものとは認められない。したがって、被告人について、建造物侵入罪の成立を認めた第1審判決を足認した原判決の判断は正当である。」(丸数字は筆者)
【解説】
▶1 第1審判決および原判決が公表されていないため詳細は不明であるが、本件コンテナ倉庫は、「基礎が打たれていない」との判示から、コンテナが土地上に置かれているのみで、土地に固定するための基礎工事の類は行われていないものと推測される。そこで、弁護人は、本件コンテナ倉庫は土地に定着していないとして、建造物侵入罪の成立を争ったのであろう。この弁護人の主張は、建造物損壊罪 (260条) における「建造物」の定義(「建造物とは家屋其他之に類似する建築物を指称するものにして屋蓋を有し墙壁又は柱材に依り支持せられて土地に定着し少くとも其内部に人の出入し得へきものたることを要す」 〔大判大正3・6・ 20刑録20輯1300頁))を前提とするものと解される。
このような「建造物」の定義は判例上確立したものとされており、放火罪の客体としての「建造物」(「家屋其の他之に類似する工作物にして土地に定着し人の起居出人に適する構造を有する物」 大判大正13.5.31 刑集3巻459頁)も、基本的に同様と理解されている。
▶2 本件で問題となった建造物侵入罪における「建造物」については、その一般的な定義を明示した判例は見当たらないが、「建造物」該当性が争われた事例において上記の定義を前提に判断したものと理解しうる裁判例が存在する (大阪高判昭和49・9・10判時 781号118頁,広島地判昭和51・12・1判時846号 125頁など)。本決定も、本件コンテナ倉庫は土地に定着していないとの弁護人の主張に対して、具体的事実に即して「土地に定着し」ているか否かを判断したにとどまり、同罪の「建造物」に関して上記の定義を修正するものではない。
▶3 しかし、このような「建造物」の定義に対しては、本件でも問題となった「土地に定着し」の要件を不要とし、代わりに、相応の恒久性と堅牢性, それに加えて、人の継続的社会活動の拠点となりうるものであることを要件とすべきとする見解が主張されている。建築技術の発展や生活様式の多様化に伴い、上記の定義が示された当時における「建造物」のイメージには該当しない、簡易な、組み立て式の工作物、相当大規模な可動 (移動) 工作物が、日常生活や社会活動の拠点として使用されるようになった現状に鑑み、「建造物」の意義を、その語の解釈として可能な範囲内で、各罪の罪質や重罰根拠に照らして合目的的に定めようとするものであり、説得的である。
もっとも、本決定が、本件コンテナ倉庫が「土地に定着し」ているといえる根拠としてあげた【決定要旨】中①~③は、上記の見解が、「土地に定着し」に代わる要件として提示しているものと符合するように思われる。そして、「定着」という言葉が、日常用語としては、必ずしも物理的に固定されている場合のみを指すわけではないことからすれば、上記の定義を維持しつつ、各罪の罪質や建築の現状に合った適用を行うことも可能であろう。またそもそも、上記の定義を示した大審院判決で問題となった客体は、潜り戸が取り付けられた門(前揭大判大正3・6・20)や、屋根に達するほど建築資材が積み上げられた建築小屋(前掲大判大正13-5-31) であり、争点は、「其内部に人の出入し得へきもの」といえるか否かにあったのである。そうだとすれば、「土地に定着し」の意義を、 建物が物理的に土地に固定されている場合を意味すると解する必然性はないといえよう。
▶4 そこで、本決定が、「土地に定着し」の意義を。 社会の現状に合わせて柔軟に解した点は評価できるが、本件で問題となった建造物侵入罪との関係では、 会通念上土地に定着しているといえる」こと(ないしは上記の見解が「土地に定着し」に代えて要求する恒久性や堅牢性)も必要ないのではないか、という疑問がある。同罪の保護法益については様々な考え方があるが、いずれの立場をとるにせよ、たとえ一時的であっても、その内部空間が日常生活や(本件のような物の保管も含む) 社会活動の場として現に使用され、管理されている建物は、その用途・性質に照らして正当な理由のない立入りから保護する必要性が認められよう。例えば、イベント開催期間中に限り設置される野外ステージや芝居小屋、簡易店舗なども、「建造物」のその他の要件(「家屋其他之に類似する建築物・・・・・・にして屋蓋を有し墙壁又は柱材に依り支持せられて」「其内部に人の出入し得へきもの」)を充足していれば、侵入から保護すべきであろう。イベント開催期間の長短によって、侵入からの要保護性、すなわち、「建造物」該当性が左右されるとする理由はないように思われる。


