2026年 01月 10日
巻四十六立読抜盗句歌集
海暮るる窓辺に枯るれ蟷螂は(堀本祐樹)
略歴を省く十年冬の雁(高勢祥子) 頼まれもせぬ草を引く余生かな(高原喜久子)
さてどこで下車したものか鰯雲(酒井◎子)
覚悟しや尉[じよう]に火箸を突き立てて(野原武)
新年を二人で迎ふ危うさよ(Masako Tokuda)
突き出しの煮凝りに入る目玉かな(をがはまなぶ)
地味に生き派手に句作を去年今年(斎藤紀子) マフラーのまま焼肉を裏返す(竹内宗一郎)
いざさらば死にげいこせん花の雨(一茶)
たつぷりと寝正月して謀[はかりごと](上西左大信)
左遷とは言はないまでも秋の風(佐藤真次)
行く夏やホテルの窓の隅田川(北田しのぶ)
小走りの乳房の揺るる豊の秋(橋本世紀男)
春隣見えないけれど死の隣(二宮正博)
老万歳ぽんと機嫌の古鼓(百合山羽公)
やる気なく放物線に豆撒くや(宮野隆一郎)
茶を飲んで湯呑を置くも芸日永(小澤實)※小三治追悼句
要はどう死ぬかなのよねワインゼリー(池田澄子)
ひとたびは空に向かひて散る桜(村上喜代子)
五つほど星を数ふる月夜かな(松本陽子)
アイロンの軽き滑りや秋の昼(山本よしえ) 冬蜂の胸に手足を集め死す(野見山朱鳥)
なるほどと思ふところに黴の生え(大南勝臣)
日陰より眺め日向の春の水(深見けん二)
人の死に追はれ追はれて秋の暮(加藤楸邨)
冬支度かつ老支度死支度(矢田民也)
生涯の伴侶の如き春愁ひ(上田秋霜)
山笑ふランドセルから足二本(佐藤朱夏)
花筏曲りきれない一処(田頭玲子)
都合よくひび割れてをり鏡割(坂口桃子)
落栗の座を定めるや窪溜り(井上井月)
余技などと言つてみたきや傘雨の忌(高野茂)
ふとしたることにあはてて年の暮(高浜虚子)
夕立のはじめの音を聞きとめし(鷲谷七菜子)
眼前に今日越す山や稲の花(抜井諒一)
ベランダにハンカチほどの鯉幟(竹内すま子)
にんげんを見飽きし桜散りはじむ(相澤礼子)
饅頭をふたつ食べても春愁(生嶋わこ)
知り尽くす男のすべて女郎蜘蛛(小谷一夫)
子は親の全てを奪ふ鰯雲(林有美)
釣堀のみどり極むる濁りかな(櫂未知子)
星祭りすべてはこのよだけのこと(近藤史紀)
知らぬ間に飯粒こぼす敬老日(釈蜩硯)
手を合わすことがたくさん夏の雲(かとうゆみ)
クーラーの前に男の仁王立ち(横田青天子)
みの虫の着のみ着のまま風のまま(乙重潤子)
孤独死のうわさの屋敷こぼれ萩(谷村康志)
「官能」を国語辞典で引く薄暑(吉田郁)
初めから泳ぐつもりの無き水着(花木研二)
露の世やとはいへ貰ふ処方箋(若林眞一郎)
白桃は天の乳房か吸ひ尽す(吉成威典)
給食のさんま腸[わた]なし頭なし(あらゐひとし)
爽やかに為しさわやかに死が励み(北原喜美恵)
断崖をもつて果てたる花野かな(片山由美子)
わが恋は人とる沼の花菖蒲[あやめ](泉鏡花)
曲者の汗もかかざる遅参かな(橋本栄治)
日も月も音なくめぐり蟻地獄(仙田洋子)
人の目が仲を疑ふところてん(井上論点)
生類の端にノミダニそして人(田代青山)
すき嫌ひなくて豆飯豆腐汁(虚子)
肉食の匂ひ隠してあめんぼう(斉藤雅博)
衰へてなほ鉦叩く鉦叩(朝広三猫子)
ここまではこのままでいい良夜かな(森住昌弘)
こがらしに二日の月のふき散るか(荷兮[かけい])
この星の秋のベンチにをる不思議(斉藤達也)
老妻の起床に安堵秋の朝(中上庄一郎)
路地裏にあはれ満月去年今年(三橋鷹女)
分からないことが楽しい秋深し(かとうゆみ)
口利かぬ妻へみかんを転がしぬ(田村とむ)
おでん酒つぶしのきかぬ汝[なれ]と吾[われ](松本侑一)
生き方を師走の街に見られけり(北村純一)
夢のあと厠へいそぐ寒きびし(小谷恒夫)
又一つ越えぬ此世の年の果(古山丈司)
他言即斬首の掟茸採(三村純也)
浅草や夜長の町の古着店(永井荷風)
気がのらぬ糸瓜を育て小学生(岡田由季)
冬瓜や疲れたる日の息深し(小野あらた)
涼しさやゆつくり帰る救急車(江川文江)
世も末と言つてはみたが良夜かな(北村季情)
ホスピスへ通ふ道のり残る虫(富森笙子)
罪のなき話題こそよし衣被(きくち宏)
終点への一駅長し竹の春(羽奈あかり)
涸沼の最後の光あるところ(松村史基)
ラグビーのボール立たせて後退る(久野茂樹)
生き死のおまけのような日向ぼこ(新井高四郎)
大寒の塵から生まれ七十三(川辺酸模)
飄々と見せたき人の冬帽子(橋本直)
ひとり居に箸置きほしき月あかり(佐藤研哉)
朝霧や室の揚屋の納豆汁(蕪村)
ため息のふかさにへこむくず湯かな(加藤宙)
風花や天の篩の美しく(斉藤まさし)
どの窓も叫ばず冬灯ともしけり(漆川夕)
あたたかき風のよごせる畳かな(千葉皓史)
春光や死ねば死んだでしかたなし(秋山未踏)
身に入むや痛み伝えるオノマトペ(高木由利子)
老人と落葉のたまる集会所(東野了)
本心の黒々とある椿の実(吉川佳生)
咲き満ちてこぼるる花もなかりけり(高浜虚子)
マウンドのひとつ頷く玉の汗(咲間源文)
小春日やゆつくり来いと残されて(柘植岸子)
長女みななべて勝気や一葉忌(徳原伸吉)


