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「刑訴法 接見等禁止の裁判に対する不服申立て ー 一橋大学教授 緑大輔」法学教室2025年12月号

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「刑訴法 接見等禁止の裁判に対する不服申立て ー 一橋大学教授 緑大輔」法学教室2025年12月号


最高裁令和7年8月14日第三小法廷決定

■論点
勾留中の被疑者に対する接見等禁止をする際の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の存否に関する審査・判断の在り方。
〔参照条文】刑訴81条,426条

【事件の概要】
被疑者は、正当な理由がないのに、ひそかに、アパートに居住する女性に対し、同アパートの浴室窓から携帯電話機を浴室内に向けて差し入れ、同人の性的な部位等を撮影しようとしたが、同人に気付かれたためその目的を遂げなかったという、性的姿態等撮影未遂被疑事件で勾留された。勾留された日の同日、検察官の請求により、原々審は、被疑者と弁護人または弁護人となろうとする者等以外の者との接見等を禁止する旨の裁判をした。これに対して、弁護人が準抗告を申し立てたが、準抗告審は、本件被疑事実の性質、内容、被疑者の供述状況及び供述内容からすれば、被疑者が、罪体や重要な情状事実について、関係者と通謀するなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして、被疑者の母を含めて接見等を禁止した原々審の判断は正当であるとして本件準抗告を棄却した。これに対して、弁護人が特別抗告を申し立てた。

【決定要旨】

〈原決定取消し・差戻し〉 「本件は、事案の性質,内容をみる限り、被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない事案であるから、原審は、原々裁判が不合理でないかどうかを審査するに当たり、被疑者が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情が一件記録上認められるかどうかを調査し、 原々裁判を是認する場合には、そのような事情があることを指摘する必要があったというべきである。
そうすると、そのような事情があることを何ら指摘することなく原々裁判を是認した原決定には、刑訴法 81条,426条の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反すると認められる。」

【解説】

▶1 接見等禁止の要件である「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(刑訴81条)は、勾留の要件である「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」 (刑訴207条1項・60条1項2号)よりも高度のものでなければならないと解されている。被疑者・被告人を勾留しただけでは対応できないような、罪証隠滅が為される具体的な危険性が認められるときに、接見禁止等を命令することができるということである。本決定は、この点の判断の適否について、準抗告審がどのように判断すべきかを改めて示すとともに、捜査段階における接見禁止等命令について、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」の認定の在り方を示すものである。
かつて最決平成31.3.13判時2423号111頁は、 公判前整理手続の段階における接見禁止等命令の適否について準抗告審が審査する際に、「勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれの有無に関し、原決定が具体的に検討した形跡」の有無についても触れ、そのような形跡が見当たらないことも考慮して接見禁止等の命令を維持した原決定を取り消した。 本決定は、捜査段階の準抗告審の判断の在り方においても、具体的な事情を検討して「そのような事情があることを指摘」すべきことを説示した点に意義がある。

▶2 本決定では、本件が「事案の性質、内容をみる限り、被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない事案」であることを確認した上で、接見禁止等命令を維持する場合であっても、被疑者が接見等により罪証隠滅行為に及ぶ「現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情」を一件記録から調査し、「そのような事情があることを指摘する必要があった」と説示している。

本決定によれば、公判前整理手続のように取り調べるべき証拠が固まった段階に未だ至っていない、捜査段階であっても、準抗告審は罪証隠滅の具体的な危険性を指摘して説示すべきことになる。組織的犯罪に加わった事案や犯罪組織の一員として犯行に加担した被疑者であれば、組織関係者と通謀して罪証隠滅を図る事案も想定しうる。あるいは、被疑者が重要証人になりうる者に対して強い影響力を有し、その者の供述が立証上不可欠な事案において、隠滅の具体的危険性を認定することもありうる。しかし本件は、単独犯として行われた性的姿態等撮影未遂被疑事件である。準抗告審は、本件のような事案においてもなお接見等の機会に被疑者が第三者と通謀する等して罪証隠滅を図る具体的な危険性があるか否かについて、被疑者の罪証隠滅の意図の強さや隠滅の対象・客体を具体的に想定できるか等も踏まえて具体的事情を摘示しつつ説示すべきだったということになるだろう。また、「被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない」と説示した点は、被疑事実の否認自体が罪証隠滅の具体的な危険性を推認するには限界があることを確認したものといえる。被疑者が否認していることを以て、安易に接見等禁止に付するべきではないことを示唆する説示だといえよう。

▶3 一般的に、罪証隠滅の可能性は、公訴提起、公判前整理手続,証拠調べと刑事手続が進展することに伴い次第に低下するとも指摘される。手続が進展すると、他人の供述等を覆すことが困難になるからである。しかし、捜査手続の段階においても、勾留に加えて接見等禁止を行うべき罪証隠滅の具体的危険性が存在するといえるのかを判断すべき責務が裁判体には存することを、本決定は改めて確認した。勾留に加えて接見等禁止に付することは、精神的苦痛が大きいところ、接見等禁止の「適用は必要最小限度に止めなければならない」という考え方(新関雅夫ほか「増補令状基本問題(下)」144頁 [小田健司])を実践するために必要なことだといえる。


by nprtheeconomist05 | 2026-01-09 15:38 | 学者