2025年 12月 01日
「猫にあるのは喜怒「愛」楽? ー 今泉忠明」文春新書 猫脳がわかる から
さて、猫の感情を探ってみましょう。
第1章で説明しましたが、猫脳は、いちばん外側の「霊長類の脳」と呼ばれる大脳新皮質が非常に少ないため、人のように理性を働かせる「意識的な感情」より、本能的な感情である「情動」が多くを占めています。意識的な感情は、人では大脳新皮質内の前頭前野がつかさどっていますが、猫にもこの前頭前野があります。ただし、少ない前頭前野がどこまで機能しているかは、まだよくわかっていないのが実情です。
すなわち、猫の感情=気持ちは、ほとんど大脳辺縁系がつかさどる情動ということになります。情動は本能に沿って湧く気持ちで、たとえば、楽しい、興味がある、怒る、イライラする、怖い、不安、(子猫などの) 世話をしたい、食べたい、交尾したい、 好きな相手と離れたくない、眠い、などです。
猫はこれらの感情を全身で表現しています。なかでも猫の気持ちが表れやすいのが、 しっぽや体勢ですが、じつは猫は驚くほど表情にも気持ちが表れます。猫は、単独行動をする動物のため、表情が乏しく思われがちですが、じつはネコ科動物は、表情筋が多いことで知られる生き物なのです。よく動く耳、マズル(上唇)と連動して動くヒゲが表情筋の多さの現れともいえますね。さらに自在に閉じ開きする瞳孔を見れば、 だいたい猫の感情を想像できるでしょう。
人の代表的な感情を表す言葉に「喜怒哀楽」がありますが、さしずめ猫だと、「喜怒、愛。楽」のほうが近いでしょうか? 哀に当たる悲しみは、猫にはありません。厳しい野生では、悲しんでいたら生きていけませんよね。心を痛める=哀しむ気持ちは、言ってみれば意識的な感情にあたるので、その点でも、猫には悲しみの感情がないと考えてもいいでしょう。猫を飼っている人なら、「そんなはずはない、私が出かけるそぶりを見せると、愛猫は寂しそうにこちらを見ている。きっと悲しいからに違いない」なんて、言いたくなるのはわかります。でも残念ながら猫は飼い主さんの外出を悲しんでいるわけではなく、ご飯をもらえなくなる心配程度でしょうね、きっと。
猫は意外と表情豊か
では実際に、猫は「喜怒愛楽」をどのように表現しているのでしょうか。主に表情から探ってみましょう。
「喜」・・・猫にとっての喜びは、食欲などの本能が満たされること。本能には狩りなどの興奮につながるものもあるので、このときの猫は、いってみれば瞳が輝くような、 生き生きとした表情になります。耳はしっかりと立ち、大きく目を見開きます。このとき、瞳に光が多く入ることで、キラキラ輝いて見えるんですね。ヒゲは興奮のために根元に力が入りピンと張ります。そんなときはマズルがふっくらするためか、猫が笑っているように見えるんですね。この笑顔については、飼い猫になってから、より見られるようになったといわれています。飼い主や同居猫などと密接に過ごすうちに喜びの表現も増えてきたのでしょう。
「怒」・・・猫は、単独行動で生きてきた動物なので、とくに警戒心が強い傾向があります。そのため、恐怖や怒りの表現は多いほうでしょう。「猫は怖い」という印象をもつ人がいるのも、猫が怒りのあまりシャーッー と威嚇している姿を目にしたことがあるからではないでしょうか。そう、いわゆる化け猫のような表情になります。大きく口を開けて上下の犬歯を見せ、シャーッと鳴きます。耳は、イカ耳といわれるように後ろに反らせるか、頭に添わせるように倒します。目を大きく見開き、対象を凝視し、瞳孔は細長くなります。怒りで顔に力が入るので、ヒゲも上がり、ピンと張ります。同時に全身の被毛も逆立ち、身体を大きく見せて、相手にこれ以上の攻撃を諦めさせようとします。
「愛」・・・これを飼い主や同居猫へ見せる親愛の表現とすると、そのときの猫は、安心していて、非常にリラックスした状態にあると考えられます。全身の力が抜けていて、 表情筋がゆるんでうっとりした表情に。野生の猫では、あまり見かけない表情でしょう。飼い猫ならではの、全身をダラダラさせてゆるみきった様子に、「おいおい、そこまで。おだらけ”で、いいんかい?」と、突っ込みたくなる飼い主もいることでしょう。目は半開きになり、目頭には瞬膜という白い保護膜が見えることも。耳は自然と外側に向き、ヒゲはだらんと垂れ、口は半開きになって、舌をしまわず、チョロッと出ている場合もあります。このとき全身は脱力しながら、くねくねと転がる猫もいるようですね。
「楽」・・・猫にとって、好奇心がわいたり、期待でワクワクしたりする状態が、すなわち「楽しい」感情。飼い猫だと、狩りの代わりとなる遊びや、食事をもらえる期待感でしょう。ヒゲは好奇心の対象を確認するために前へ前へと向きます。瞳は対象に合わせて細長くなり、その後瞳孔が開いて大きくなり、黒目がちに。よく、瞳が黒目がちだと、猫が可愛く見えるといわれますが、それは感情的にも嬉しいからなんですね。 期待とワクワク感で、心拍数が上がると血流もよくなって、ピンク色の鼻をもつ猫は、 真っ赤になることも。耳は、気になる対象の音源を探るため、小刻みに動かして、音の出どころへと向けます。
いかがですか? 表情だけを観察しても、意外と猫の感情がはっきり見てとれることが分かっていただけたのではないでしょうか。


